6月 2008

足尾銅山と世界遺産

もうかれこれ5年目になりましたが、5月中旬、ゼミ生(2年生のみ)を引き連れて、渡良瀬遊水地と足尾巡り、植林準備のボランティア(足尾に緑を育てる会主催)をしました。昨年と比べて大きな変化があったのは、足尾銅山を世界遺産(適用種別:産業遺産・文化的景観)として登録する活動が本格的に始まったことでしょうか。2007年9月26日に日光市と栃木県が、文化庁に対して、「世界遺産暫定一覧表追加記載提案書」を提出しました。提案書を見てみると、提出時点では、足尾銅山に関係する建造物などはほとんど法的な保護の対象になっておらず、悪く言えば放置されている状態だったことが伺えます(ほんの一部ですが、登録有形文化財(建造物)、市指定史跡や建造物はあります)。やっと、世界遺産登録運動の流れの中で、2008年3月、国の史跡(足尾銅山跡、通洞坑、宇都野火薬庫跡)に指定されました。
徐々に保全活動が広がっていくことは重要なのですが、現実には、一部の関連の建造物の傷みは激しく、近々に何らかの手を打つべき状態でしょうか。たとえば、古河の私有地内にある本山製錬所(写真参照、2008年5月撮影、クリックすれば大きくなります)は、毎年、見る度に損傷が激しくなっているように思えます。私企業にとって、負の遺産は、積極的な保全対象にはならないのでしょうが、観光地化した通洞坑等だけではなく、精錬所や選鉱所も朽ち果てるがままにせず対応するのが、本当の社会貢献活動であり、厳しく言えば企業の存在をかけた義務行為でしょう。

本山精錬所

伊東市の温泉財産区

2007年に実施した財産区悉皆調査の結果によれば、2007年3月末時点で、鉱泉地を財産として保有・管理している財産区は、全国に18あった。うち5財産区が設置されているのが静岡県伊東市(人口約7.5万人、面積約124km2)である。伊東市は、主な産業は観光業(温泉と海水浴)と漁業であり、同じく観光業が中心の熱海から電車で約30分ほどで伊東駅に到着する。詳細な伊東市の財産区の温泉資源管理については、廣川氏の「静岡県伊東市の温泉資源管理」『Local Commons』第5号、を参照していただきたい。ここでは、現地に訪れた感想を簡単に紹介する。
 伊東駅を降りると、ロータリーの前で各旅館・ホテルの10人近くのお出迎えが待ちかまえていた。小ぎれいな身なりに旗をもっているが、新幹線の駅がある近隣の温泉地、熱海と比べると駅前はこぢんまりしているので、観光地に来た、という雰囲気はあまりない。駅前から、数分歩くと、早速、共同浴場がある。商店街の入り口付近で、珍しく地下にある(写真最上部、2008年1月撮影、クリックすれば大きくなります)。ここは、湯川財産区の下部組織・湯川共同浴場組合が運営するものだ(上記の数字には含まれず)。12時頃、降りていくと、番台をつとめるおばさんが掃除をしていた。駅前にあるため、区民もさることながら、観光客も多いそうで、けっこうにぎわっているよ、と自慢げに話してくれた。残念なことに営業時間は2時からであったので、浴場の中央に位置する湯船を拝んでおしまいであった。
 そもそも、伊東市の財産区は明治時代に設置されたものである。伊東市の前身、伊東村と小室村は1889年に旧村が合併してできた村で、その際、旧村財産を新村財産にせず、旧村単位で保有・管理するために財産区が設置されている。現在、伊東市には15の区が存在し、うち10区に財産区が存在している。湯川財産区は財産区直営で温泉事業をしていないが、直営しているのは、松原、岡、鎌田、玖須美、新井財産区となる。
 鎌田財産区の温泉以外はざっと見て回ったが、基本的に財産区が運営する温泉は、区民の憩いの場と言える。そのため、温泉で大きな利益を上げようとする意図はあまり見られない。旅館経営をしていた区民から寄付された土地に新設された和田湯会館(写真中部、2008年1月撮影、クリックすれば大きくなります)は、玖須美財産区が運営するもので、利用料金は、区民は大人70円、70歳以上高齢者30円、子供(小学生以下)無料と非常に廉価となっており、区外民でも大人300円、子供100円となっている。建物を一見すると観光客向けの施設にも見えるが、実際には公民館的機能も担っている区民向けの施設である。昨今は若者の利用が減りつつあるという話も聞かれたが、老若男女が適当な時間に集い、会話を交わすのである。私が入った新井の湯(写真最下部、2008年6月撮影、クリックすれば大きくなります)では、魚市場が道を挟んで反対側にあることから、漁師関係者の利用が盛んである。漁師の人たちは、それぞれ、ほぼ決まった時間に日々、入浴し、その後、親しい人たちと食事などに出かけるそうだ。
 伊東の温泉財産区では、2つのことが気になった。1つ目は、財産区内での温泉運営の位置づけである。下部組織が運営している湯川財産区も含め、財産区は、鉱泉地以外にも多くの財産を保有している。宅地であったり、山林や畑、公衆用道路などである。ある財産区をのぞき、それらの財産収入がかなりの規模になっているのだ。大きいところだと、平成18年度の歳入が約6000万円、運営基金が数億円にも上っている。すなわち、温泉事業は先述の通り、収益事業ではなく、ほかの資産収益で運営される地域の共益事業ということである(実際に、松原をのぞき温泉事業単独では赤字)。そういう意味では、温泉事業が肌ふれあうつながりから、地域の求心力を作り出すためのものと見なせる。
 2つ目は、区民対象である財産区の共同浴場が、すべて区外民にも開放されているところだ。温泉地にある共同浴場は、区民以外を排除する傾向があると思われるが、伊東市の場合はそのような傾向は見られない。外湯文化がほとんどない伊東地区において、なぜオープンな共同浴場が存在しているのかは気になるところだ。地域の求心力を作り出すためのものと書いてみたが、それだと区外民を排除するクローズドな運営をとってもいいのだが、そうしていないのは、歴史的な浴場の設置経緯をまずひもとかなければわからないであろう。

湯川第一共同浴場
新和田湯会館
新井の湯