根室フットパスの明郷パスについて

2003年から設置が始まった根室フットパスは、根室市の酪農家集団AB-MOBITという5人からなるグループが、行政の手をほとんど借りず、地元産業界の支援を受けながら、主に自らの所有する牧場の中に歩く道を整備することで形成されていった。2019年現在、厚床パス、初田牛パス、別当賀パス、明郷パスの4コース(計46.8km)が整備されている。なお、私有地や道路ではない公有地等を通り抜けることが多いため、AB-MOBITのメンバーである明郷・伊藤牧場や道の駅スワン44ねむろ等で販売されているルートマップ(各コース1部200円)が通行証代わりとなっており、歩く際は必携となっている。
4つのコースの中で最も新しいのが2016年に開通した明郷パスである。明郷パスは、2015年からAB-MOBITと専修大学経済学部泉ゼミが合同で整備したもので、明郷・伊藤牧場から風蓮川鉄橋までの約4.3kmのコースとなる。

①スタート:明郷・伊藤牧場

JR花咲線・厚床駅から始まる厚床パスの中間地点が明郷・伊藤牧場である。厚床駅から厚床パスを歩けば90分ぐらい、根室交通の中標津線のバスに乗れば7分ほどで明郷バス停に到着する(バス停から徒歩5分ほど)。なお、根室駅と中標津空港を結ぶ空港バスでも行くことができる(伊藤牧場前下車)。牧場内には、直営のレストランATTOKOがあるので、そこで食事をしたり、お土産を買ったりするのも良い。明郷パスのルートマップをまだ持っていなかったら、必ずここで買うことになる。牧場から国道243号線に戻って北に向かって歩き、最初の分岐を左に行くと、「明郷農事会館」という古めかしい建物が見えてくる。

写真1:レストランATTOKO
別所の谷戸の風景

②明郷農事会館

旧和田村の村長宅を移築した建物である。農事会館から、道路向かいの小径に入る。国道から入ってきた場合は、農事会館が左手、小径は右手に見える。道なりに左に曲がるように150mほど歩いて行くと、旧標津線跡に合流する。

写真2:明郷農事会館
御尊櫃御成道に入る手前の道標

③旧標津線

標津線は、旧国鉄およびJR北海道が運営していた鉄道路線である。標茶町の標茶駅で釧網本線から分岐し標津町の根室標津駅に至る本線(59.4km)と、中標津町の中標津駅で本線から分岐し根室市の厚床駅で根室本線(花咲線)に接続する支線(47.5km)から成り立っていた。1931年(昭和6)から工事が着工し、1933年に厚床~西別(別海)間が開通、1937年には全線開通し、貨物輸送だけでなく、観光客や地元住民の足としても利用された。しかし、1960年代に入ると、沿線の道路整備も進み自動車も普及したことで、貨物も旅客もともに減少の一途をたどり、1989年4月30日に全線が廃止となっている。

写真3:旧標津線跡の草刈りの風景
みどりのゆび管理地前の道標

④鉄道防風林と格子状防風林

旧標津線跡に入ると、2km弱、森の中を歩くことになる。特に冬は風が強いこともあり鉄道防風林が設けられ、それがそのまま残っている。また、森から抜け出す手前、右手には格子状防風林も残っている。バラスト含め路盤跡がきれいに残っているため、歩くのはそれほど困難ではない。ただ、エゾシカの通り道になっているところは、道が崩れていて、雨が降ると水たまりになってしまう。運が良ければ、エゾシカの群れに出会うことができる。

写真4:エゾシカの群れエゾシカの群れ

⑤湿原

森を抜けると、一面、湿原が広がっている。旧標津線の路盤は、風蓮川の氾濫による影響を防ぐために地面よりも数段高く盛土されており、とても景色が良い。ここでは、運が良ければタンチョウのつがいを見ることもできる。1.6kmほど直線の路盤跡を歩くと、ゴールとなる風蓮川鉄橋となる。

写真5:湿原から一段高い路盤跡
湿原から一段高い路盤跡

⑥風蓮川鉄橋

鉄橋の銘板には、「横河橋梁製作所東京工場製作/昭和8年」と記載がある。標津線廃止後30年近く経ったが、線路は取り除かれているが鋼鉄の橋がほぼ当時の状態で残っている。

写真6:風蓮川鉄橋手前の道標
風蓮川鉄橋手前の道標

写真7:風蓮川鉄橋
風蓮川鉄橋

⑦旧標津線フットパス

風蓮川鉄橋を渡ると、別海町の旧標津線フットパス(運営主体:別海町グリーン・ツーリズムネットワーク)と接続する。今後、根室フットパスの別当賀パスと根室市落石にある落石シーサイドウェイ(運営主体:落石地区マリンビジョン協議会)が接続されると、総延長70km近いロングフットパス(トレイル)が完成することになる。

写真8:旧標津線フットパスのコース上にある奥行臼駅跡旧標津線フットパスのコース上にある奥行臼駅跡

⑧帰路

伊藤牧場までは2つの戻り方がある。一つはそのまま来た道を戻る(往復で2時間強)、もう一つは路線バスを利用するものである。風蓮川鉄橋を渡った後、道なりに進み、右手に折れると国道243号線に出る。国道243号線を南に戻るように歩き、風蓮川を越え、しばらく歩くと、左手に待避場所が見える。そこで、手を挙げて路線バス(根室交通・中標津線)を止めて乗り込み、伊藤牧場に戻ることもできる。詳細は、明郷パスのルートマップに載っている。

2019年3月6日公開

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