コモンズ研究会・研究大会終了

コモンズ研究会主催の第五回の研究大会が東京大学農学部キャンパスにて行われました。今回は、「コモンズの変容」という全体テーマを設け、基調報告は東大・東洋文化研究所の菅豊さんが行い、そのあと田中求さん(筑波大学大学院)、奥田裕規さん(森林総合研究所)、田村典江さん(アミタ)が報告されました。
「コモンズの変容」の契機は、例えば近代化に伴う社会変動(法制度の変化や市場経済の進捗)であったり、自然環境の変動、人口の変動といったものがあったりしますが、菅さんの報告の中心は「アクターの異質性」に着目したものでした。これまでコモンズ論では、一般的には「オルソン問題」に代表されるように組織・制度内の異物はネガティブに理解(つまり効率性・生産性を落とす要因になる )されてきましたが、必ずしもそう断定できないというということです。 The Drama of the Commons (2002) の第三章"Unequal Irrigators: Heterogeneity and Commons Management in Large-Scale Multivariate Research"で取り上げられてもいるように、例えば外から異なったノームを持ったアクターが制度(エリア)に参入することが、コモンズの軋轢を「落ち着かせる」というコモンズの変容を起こす役割があり、異質性をポジティブに捉えられることもあります。
コモンズを時代時代で輪切りにして分析したり、精緻なシステム研究に特化するのではなく、その制度供給から始まる歴史をよく見ていくこと、つまり動態的な分析が、コモンズ研究ではこれからより重要になっていくのではないでしょうか。特に持続的な資源管理の手法として「コモンズ」を捉える風潮がある中、当該資源が社会変動により経済的な価値を失い、結果としてコモンズをコモンズたらしめる大きな要因といえる排除性を弱めていくこと(短期的にはアクターの異質性が増大すること)は、どういう変容をもたらすのかは大きな問題だと思われます。
もともと自給的な意味合いを持っていた典型的コモンズが、市場が進捗する中で、価格をシグナルとした共同体外部との財のやり取りに直面し、「閉じたコモンズ」が市場機構の中に取り込まれ、経済的に「開いたコモンズ」へと移行していった歴史があります。
では、再びコミュニティ内で自給体系を完結する典型的コモンズを構築し直すことになるのか。その場合、極端にいえば、市場とコミュニティを切り離し現在の豊かさを手放すことにつながり、あえて強行するなら個人の自由を奪うことにもつながるでしょう(この辺りの問題設定は、私の地域通貨論でも頭の痛いところ)。そうなると、例えば、都市近郊という条件にあるコモンズは、イングランドのオープンスペース(いうなれば公園) のような空間的に「開いたコモンズ」という形態が一つの「落ち着いた」状態として位置づけられるかもしれません。ただ、そうなると、日本の入会は、いまだオープンスペース化していないのはどう理解すべきなのか、といろいろ疑問は出てきます。
という感じで、いろいろ考えるところが多かった研究大会となりました。次の関東でのコモンズ研究会の行事はまだ決まっていませんが、秋口に定例研究会を開催する予定です。

もうその島に行くのは6回目ぐらいですが、今日から、ゼミの学生を引き連れ、瀬戸内海の某離島で実習兼調査を行ってきます。個人的な感想では、大げさかもしれませんが瀬戸内海の離島は本州の中山間地の比ではないほど、いろんな意味で深刻な状況だと思っています。