離島が「離島」ではなくなる

 毎年、ゼミの合宿を行っている愛媛県今治市の離島・岡村島が、2008年11月に「離島」ではなくなってしまう(2008年のゼミ合宿の様子はここをクリック)。岡村島は、2005年に今治市と対等合併するまでは、関前村の中心となる島であった。旧関前村は、岡村、大下、小大下の三島からなり、1890年に岡村と大下村が合併してできた村である。江戸時代は、少し意外なことに、対岸の今治藩ではなく、松山藩の領地であった。ちなみに小大下島は、近世までは無人の島で、岡村と大下村の両村入会の地であった(江戸時代から入会紛争は多発していた模様、明治時代以降は石灰岩の採掘が盛んとなる)。
 瀬戸内海の島の多くは明治期からミカン栽培が盛んになり、もれなく関前地域でも1900年前後から盛んになっている。一時期はミカン御殿が建つほどの所得があったが、1970年代に入るとミカンの価格が暴落し、その後、関前地域の人口も激減していく(下記写真参照、戦後は一貫して人口は減少していたが、ゆるやかであった)。2008年3月末現在(住民基本台帳人口)で、岡村が491人、大下が121人、小大下が43人となっており、戦後直後と比較して5分の1程度となっている。
 このような岡村島は、1995年に岡村大橋と平羅橋、1998年には中の瀬戸大橋が完成して、広島県の大崎下島と陸続きになっている。これらの橋の事業は広島県の事業として行われ、広域農道と位置づけられている。大崎下島の住民が、自分のミカン畑(「大長みかん」というちょっとしたブランドみかんを産出)に船ではなく車で行くことができるようにするというのが建設目的である。表向きは、岡村島の利害と関係なく、広島側の島と陸続きになっている。
 この架橋は、全体構想として「本州 - 下蒲刈島 - 上蒲刈島 - 豊島 - 大崎下島 - 平羅島 - 中ノ島 - 岡村島 - 大崎上島」と位置づけられているものの一部である(岡村島だけが愛媛県)。この全体構想の中で、岡村島と大崎上島の架橋建設は全く具体化しておらず、現在、「上蒲刈島 - 豊島」の架橋建設が進んでいて、その他の架橋はすべて終わっている。そして、この架橋が2008年11月に完成し、岡村島は本州と陸続きになり、離島ではなくなってしまうのである。
 愛媛県が策定した離島振興法に基づく実施計画(平成15年度~平成24年度の10ケ年間計画)では、広島側と陸続きになることにより、観光客の呼び込みが容易になり、UJIターンのハードルも下がると位置づけている。しかし、一部の島民の話を聞いたに過ぎないが、現実には陸続きになることの不安(治安の悪化など)の方が大きくまさっており、また観光客を呼び込むためのハード(91年に作られ、ゼミ合宿で使用している公設の宿泊施設も整備が不十分)とソフト(島のどのような資源をアピールするのかという認識が共有されていない)は整っておらず、産業的にUJIターンも見込みがたっているとは思えない。岡村島の島民にとって陸続きになることは、今のところメリットがほとんどないと言っても良いだろう。
 例えば、もし橋の下に水道管を敷設できれば、島にとっては大きなメリットとなる。現在、岡村島は海水淡水化プラント(1997年完成)があるため水不足の懸念は起きていないが、そのプラントも耐用年数が迫っており(財政的に新規更新は難しそう)、農業用水の確保も考えると、近々、新たな水源が必要となる。ただ、広島県の事業だったこともあり、そもそも橋の下に水道管を敷設することは想定されていなかったため、重量的に敷設が難しいのが現実のようで、島民は非常に残念がっている。
 離島が「離島」でなくなることは、岡村島にとっては生活面でも観光面でも今のところメリットがあまり見いだせない。もう静かな「離島」を売りにすることもできない。厳しく書けば、行政に頼らず、島民自らが協調して、新しい行動を起こし、メリットを作り出すべきなのであろうが、良くも悪くも地域の凝集点であった役場が消え、若者がほとんどいない中(2005年の高齢化率は54.7%(国勢調査))で、多くの過疎高齢地域と同じく、地域機能の現状維持を図るのがせいぜいとなっている。
 当たり前のように言われていることだが、地域機能が極端に減少する前に、地域住民が地域資源(注記参照)を見直して、外部の理屈から始まった架橋による本州との接続を受け身にならず、積極的にプラスに働かせることが、岡村島と周辺地域の持続可能性を決めて行くであろう。

注記:地域資源として、例えばハードとして周辺の島にはない人工海水浴場、公設の宿泊施設(30名規模)、立派な小中学校施設、安価に入居できる介護施設などがあり、島民のたすけあい活動やお祭りといった共同体機能も十分に残っている。隣接する島もやっているような地元のみかんや海産物を都市部に売り込んだりする資源利用以外にもっと着目すべき。