韃靼旅行記(3):東北地方の料理 2002-01-30

韃靼旅行記(3):東北地方の料理 2002-01-30 初出『人間の経済』25号 ゲゼル研究会

泉留維(いずみるい)

 中国といえば、世界に名だたる料理大国である。北京料理、四川料理、上海料理、広東料理といえば、知らぬ人はほとんどいないであろう。ただ、今回訪れた中国東北地方には、何か代名詞がつくような世界的に有名な料理はない。また、料理のほとんどが、醤油ベースで作られており、比較的濃い味が多い。好みもあるだろうが、わたしの口に合う料理がけっこう多かったのはうれしかった。海外で口に合わない料理が毎日出ると、これほど閉口することはないものである。

 長春に入り、早速、その昼から当然ながら東北地方の料理を味わうことになった。昼は、コーディネーターの林さんの元同僚が集まり、同窓会のような食事会になった。中国料理の特徴の1つとなった中央に回転テーブルのついた円卓が、個室の中央におかれている。この時聞いて驚いたのであるが、この回転テーブルは実は日本人が発明し、日本から中国に入ったものであるそうだ。一体こんな便利なものを、どこの誰がいつ発明したのであろうか。

 円卓を囲む場合は、席次がある。おおよそ出入り口に近いほうが下座、遠いほうが上座である。食事を始める前に、どこに誰が座るかでいろいろ相談しているのを見て少し驚いた。特段フォーマルな食事会でもないのだが、席次はかなり重要らしい。そして席に着き、円卓に大皿の料理が順々におかれていくのだが、当然料理にはもれなくアルコールがついてくる。特に東北地方では、白酒が好まれる。白酒とは、一般に穀類を原料とする蒸留酒のことを指す。原料にコーリャンを用いたコーリャン酒が最も多く、東北地方の白酒はほとんどコーリャン酒である。白酒の多くは、アルコール分50%以上の高濃度酒で、60〜65%のものも少なくない。

この白酒をショットグラスのようなグラスで3杯の飲むが、食事会の始まりの儀式である、宴会の主人が曰わった。わたしとしては、白酒のにおいがもともと苦手なのでビールに変えて欲しいところであるが、白酒を飲まないと会が始まらないので、勢いよく3杯飲んだ。お決まりのように一応喝采を浴びた。にしても、林さんの元同僚は昼休み(おそらく)に仕事場を抜けてきているのである。こんなにアルコールを飲んでも良いのだろうか。

 この晩は、林さんの朋友との食事会になった。昼間はホテルの一室であったが、晩は「大酒店」、いわゆる飲んで食べるお店であり、日本の居酒屋みたいなところで食事をした。ここでは、典型的な東北料理がたくさんでてきた。料理名はわからないが、まず、酸っぱい白菜(酸菜)のスープ。白菜を雪の中に寝かして発酵させ、それをベースにしたスープなのだそうだ。あまりに酸っぱいので、お酢のスープかと最初は思った。次に、豚の血の固まり、プヨプヨしていて一見チョコムースのようなものである。ドイツには、ブルートヴルスト(主として豚の血、豚肉、背脂を使うが、血のみで作るものもある)というソーセージがあるが、それとは少し違うふんわりした感じである。まわりから、美味だからと盛んに進められたが、好んで食べるほどおいしいとは思えなかった。あとは、鹿肉や犬肉の料理である、獣のにおいが多少するが、思ったよりも柔らかし食べやすい。この時はなかったが、後日登場した蝉の幼虫のソテーもどきもよく食べるそうだ。栄養価が高いらしい。

 食事の締めにはだいたい点心とデザート(多くはフルーツ)が出てくる。今回の旅行で出てきた点心は、ほとんどが餃子であった。餃子の中身には、先ほど書いた酸っぱい白菜と豚肉が餡になっているものが多かった。これも東北ならではであろう。そして、親友や客人を送り出すときには、なおさら最後に餃子を出すらしい。結婚式でも餃子を出す習慣もあり、餃子は縁起物みたいだ。

 長春を出て、このあとハルピンや吉林などにも行くのだが、どこも醤油ベースの味付けの料理が多く、ニューも似かよっていた。今、東京ではフランスのジビエ料理が流行しつつあるようであるが、東北地方ではあちこちで、野ウサギやキジを路上で売っており、豚肉や牛肉などをはずせばすべてジビエ料理と言えるかもしれない(ジビエ料理なるものを食べたことはないが)。あと路上でよく売っているものとしては、キノコ類が挙げられよう。木耳に始まり、ほんといろんな乾燥キノコが売られている。乾燥松茸もよく売っていた。松茸は、ここでも比較的高いキノコであり、言い値で1斤(500グラム)60元ぐらいであった。それにしても乾燥松茸をどうやって食べるのであろうか。きっと土瓶蒸しにはむいていないだろう。

 東北地方の料理は、たしかに洗練されているとは言えず、味も濃いものが多いが、代表的な料理(北京料理や四川料理など)に比べて、決して見劣りするものではないと思う。おいしい田舎料理といえば雰囲気が伝わるであろうか。もし近くに東北地方の中国料理を出す店があれば、一度は行ってみるのをおすすめする。

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