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- 執筆者: izumi
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12月中旬、奄美大島南端の瀬戸内町に赴き、現在進行中の一般廃棄物処理場建設に伴う裁判についての調査を行った。瀬戸内町では、 77年建設のごみ焼却場が耐用年数(00年まで)が迫り、また廃棄物処理法の改正に伴い、焼却場ならびに最終処分場(03年に閉鎖予定だった)の新設が求められていた。迷惑施設であることから、建設予定地の決定には紆余曲折があり、98年10月、網野子集落の部落山に建設することを町が決定した。
98年11月29日、当該山林の町への貸付に対して、集落の臨時総会が開かれ、賛成44、反対5世帯の多数決決議により、町への貸与が承認された。 この決定についてまず危機感を覚えたのが、建設予定地の下流の集落である嘉徳集落の人々である。建設予定地周辺から嘉徳川(写真)にかけては、アマミノクロウサギ(絶滅危惧種?B類)やリュウキュウアユ(同?A類)などが生育している場所であり、奄美の生態系にとって貴重な場所であると共に、集落の人々にとっては生活の場である嘉徳川が汚染されるかもしれない状況となったのである。そして、当該山林が網野子集落の共有入会地であったことから、01年1月26日、反対派住民9名が入会権(全員一致原則の適用)に基づき建設工事差し止めの仮処分を申し立てた。
仮処分の申立は、地裁名瀬支部では入会権の存在と保全の必要性を認め認容、異議申立では一変して仮処分の取り消し、高裁への抗告ではまたひっくり返り工事禁止の命令、最高裁(03年12月25日)では高裁と同様の決定が降りている。最高裁の仮処分指示の決定にもかかわらず、町は工事中止の意思を示さなかったため、反対派住民は本訴を提起した。04年2月20日、第一審判決では原告らの請求が認められたが、06年4月28日の控訴審では町が勝訴している。その詳細はここでは書ききれないため割愛するが、要点は入会権の処分行為を「全員一致制」か「多数決制」のどちらで行えるかである。当然ながら、入会権はその性質上、多数決がふさわしくない物権であるはずだが、高裁ではそれを認めなかったのである。現在、最高裁に上告し、書類が受理されているようなので、07年には審理が行われるかもしれない。
現在のところ、地域ないしは集落外からの安易な開発を地元住民が止める法的な枠組は存在していないに等しい。環境権や自然享有権という権利は未だ明確化しておらず、その中で開発を止める大きな法的手段が「入会権」となっている。その入会権の処分が「多数決」で可能になった場合、いったいどうなるのであろうか。