財産区

財産区悉皆調査の結果などについて

財産区悉皆調査の結果などについて(2011年9月29日)

文部科学省の科学研究費補助金・特定領域研究『持続可能な発展の重層的環境ガバナンス』(領域代表者:植田和弘・京都大学大学院教授)の「グローバル時代のローカル・コモンズの管理」班 (研究代表者:室田武・同志社大学教授)の一事業として実施されていた財産区悉皆調査(実施責任者:泉留維・専修大学准教授)ですが、2008年3月31 日付けで結果をとりまとめた報告書を発行し、その後データの点検や内容の充実を図り、2011年8月3日付で『コモンズと地方自治:財産区の過去・現在・ 未来』という本を発刊しました。これもひとえに自治体関係者の皆様のご協力の結果であり、関係各位には厚く御礼申し上げます。

調査結果の概要

対 象:全市区町村(1827自治体:1804市町村、23特別区)

方 法:質問紙郵送方式(2007年3月1日付送付)

質 問:2007年(平成19)年3月31日時点での財産区の状況など

①回答自治体数:1,795(98.3%)
②財産区保有自治体数:442(24.2%)
③設置されている財産区数:3,704
④平成の大合併期間に解散した財産区数:56
⑤平成の大合併期間に新設された財産区数:55
⑥平成の大合併期間に合併した財産区数:2

報告書のダウンロード

『財産区悉皆調査報告書:ローカル・コモンズとしての財産区』(PDF・1.8MB)

「資料編Ⅲ章 財産区一覧」(エクセル・532KB)>

☆運営中の財産区(平成19年3月末時点)については、ここで詳細なデータベース検索を行うことができます。

なお、報告書のデータ等にミスが見つかっていますので、可能でしたら、下記の著書をお読みいただければ幸いです。

『コモンズと地方自治』について

著 者:泉 留維, 齋藤 暖生, 浅井 美香, 山下 詠子

出版社:日本林業調査会

価 格:2500円

目次などの詳細については、日本林業調査会のHPをご参照ください。

伊東市の温泉財産区

2007年に実施した財産区悉皆調査の結果によれば、2007年3月末時点で、鉱泉地を財産として保有・管理している財産区は、全国に18あった。うち5財産区が設置されているのが静岡県伊東市(人口約7.5万人、面積約124km2)である。伊東市は、主な産業は観光業(温泉と海水浴)と漁業であり、同じく観光業が中心の熱海から電車で約30分ほどで伊東駅に到着する。詳細な伊東市の財産区の温泉資源管理については、廣川氏の「静岡県伊東市の温泉資源管理」『Local Commons』第5号、を参照していただきたい。ここでは、現地に訪れた感想を簡単に紹介する。
 伊東駅を降りると、ロータリーの前で各旅館・ホテルの10人近くのお出迎えが待ちかまえていた。小ぎれいな身なりに旗をもっているが、新幹線の駅がある近隣の温泉地、熱海と比べると駅前はこぢんまりしているので、観光地に来た、という雰囲気はあまりない。駅前から、数分歩くと、早速、共同浴場がある。商店街の入り口付近で、珍しく地下にある(写真最上部、2008年1月撮影、クリックすれば大きくなります)。ここは、湯川財産区の下部組織・湯川共同浴場組合が運営するものだ(上記の数字には含まれず)。12時頃、降りていくと、番台をつとめるおばさんが掃除をしていた。駅前にあるため、区民もさることながら、観光客も多いそうで、けっこうにぎわっているよ、と自慢げに話してくれた。残念なことに営業時間は2時からであったので、浴場の中央に位置する湯船を拝んでおしまいであった。
 そもそも、伊東市の財産区は明治時代に設置されたものである。伊東市の前身、伊東村と小室村は1889年に旧村が合併してできた村で、その際、旧村財産を新村財産にせず、旧村単位で保有・管理するために財産区が設置されている。現在、伊東市には15の区が存在し、うち10区に財産区が存在している。湯川財産区は財産区直営で温泉事業をしていないが、直営しているのは、松原、岡、鎌田、玖須美、新井財産区となる。
 鎌田財産区の温泉以外はざっと見て回ったが、基本的に財産区が運営する温泉は、区民の憩いの場と言える。そのため、温泉で大きな利益を上げようとする意図はあまり見られない。旅館経営をしていた区民から寄付された土地に新設された和田湯会館(写真中部、2008年1月撮影、クリックすれば大きくなります)は、玖須美財産区が運営するもので、利用料金は、区民は大人70円、70歳以上高齢者30円、子供(小学生以下)無料と非常に廉価となっており、区外民でも大人300円、子供100円となっている。建物を一見すると観光客向けの施設にも見えるが、実際には公民館的機能も担っている区民向けの施設である。昨今は若者の利用が減りつつあるという話も聞かれたが、老若男女が適当な時間に集い、会話を交わすのである。私が入った新井の湯(写真最下部、2008年6月撮影、クリックすれば大きくなります)では、魚市場が道を挟んで反対側にあることから、漁師関係者の利用が盛んである。漁師の人たちは、それぞれ、ほぼ決まった時間に日々、入浴し、その後、親しい人たちと食事などに出かけるそうだ。
 伊東の温泉財産区では、2つのことが気になった。1つ目は、財産区内での温泉運営の位置づけである。下部組織が運営している湯川財産区も含め、財産区は、鉱泉地以外にも多くの財産を保有している。宅地であったり、山林や畑、公衆用道路などである。ある財産区をのぞき、それらの財産収入がかなりの規模になっているのだ。大きいところだと、平成18年度の歳入が約6000万円、運営基金が数億円にも上っている。すなわち、温泉事業は先述の通り、収益事業ではなく、ほかの資産収益で運営される地域の共益事業ということである(実際に、松原をのぞき温泉事業単独では赤字)。そういう意味では、温泉事業が肌ふれあうつながりから、地域の求心力を作り出すためのものと見なせる。
 2つ目は、区民対象である財産区の共同浴場が、すべて区外民にも開放されているところだ。温泉地にある共同浴場は、区民以外を排除する傾向があると思われるが、伊東市の場合はそのような傾向は見られない。外湯文化がほとんどない伊東地区において、なぜオープンな共同浴場が存在しているのかは気になるところだ。地域の求心力を作り出すためのものと書いてみたが、それだと区外民を排除するクローズドな運営をとってもいいのだが、そうしていないのは、歴史的な浴場の設置経緯をまずひもとかなければわからないであろう。

湯川第一共同浴場
新和田湯会館
新井の湯

山梨県の財産区

 ほぼ一年がかりで、ローカル・コモンズの一形態である財産区の悉皆調査を実施していますが、平成の大合併の際、新設された財産区の過半は山梨県にあることがわかりました。そして、その大部分が恩賜県有財産(恩賜林)保護組合が、合併に伴い財産区化したものです。なぜ、財産区化したのかは、アンケート調査ではわからないので、10月、現地で聞き取り調査を実施しました。その結果は、また別の機会のふれるとして、その調査の過程で、恩賜林以外で財産区化したところも訪問しました。
 その中の一つが、旧明野村および旧須玉町にある浅尾原財産区です。徳川時代、朝神村と穂足村の住民の入会地でしたが、明治に入り、官有地に編入されてしまいました。しかし、両村の住民は、国へ払下げを請願し、1886(明治19)年に入会地の払下げが許可されました。買収面積は358ha、金額は約344円、当時の朝神村の歳入3年分にもあたる額です。この周辺で入会地の払い下げを実施したところは、詳細に調べてはいないですがどうもあまりないようです。
 平成の大合併以前は、土地が町村をまたいでいたので、一部事務組合がその所有・管理を行っていましたが、北杜市発足に伴い、一部事務組合でいることができなくなり、仕方なく財産区に変更したそうです。この「仕方なく」がポイントになるのですが・・・
 現在、財産区には、2人の専従職員がおり、独自に事務所も構えています。その事務所の写真を見てもらうとわかるように、非常に立派な建物です。フラワーセンター用地売却収益で建設したそうです。財産区の意志決定は、組合の時と同じく役員会が行い、役員は朝神地区から7人、穂足地区から7人が選ばれます。組合員の資格は世帯単位で、新住民は組合員には原則なれないなど、いわゆる入会集団として運営されているようです。
 キャンプ場の運営から山林パトロールの実施まで、しっかりと活動している入会集団でした。財産区の新設といっても、組合でいれないためという理由に過ぎず、いわゆる明治や昭和の大合併時の新設とはかなり違う様相です。

浅尾原財産区会館

雑感

学術論文や雑誌記事の一部は、「研究」に全文を公開しています。

2007年11月7日更新

  • 「入会権の環境保全的機能」、科研『グローバル時代のローカル・コモンズの管理』 第1回公開セミナー(同志社大学)報告PP(4.1MB) 2007-11-7 
  • Showing CCs in Japan by a chart as of 2006 2007-11-7 
  • Showing CCs in Japan by a chart 2006-6-24
  • 2006年3月18日:地域通貨シンポジウム「地域通貨hanaの街作りへの寄与:まち(商店街)の活性化につながるボランティア活動助け合い」(会場:町田市民フォーラム4階第2会議室AB、主催:まちだ地域通貨事業推進協議会) 発表PPT 2006-3-18
  • 読書ノート「デイリー、ハーマンE(2005)『持続可能な発展の経済学』(新田功・蔵本忍・大森正之共訳)みすず書房」 2006-2-9 
  • 日本の地域通貨の動向 2006-2-6  (初出『人間の経済』114号 ゲゼル研究会:下記のNPO学会発表論文から一部抜粋し、まとめなおしたもの) 
  • 「日本における地域通貨の進展と今後の課題」:日本NPO学会第七回年次大会(2005年3月21日)発表時配付資料(論文投稿まで一時公開) 
  • アリストテレスの経済論〜地域通貨を読み解く一つの鍵〜 2005-05-17 
  • これまでの地域通貨の展開と電子ネットワーク  2005-03-19  (初出『人間の経済』82号 ゲゼル研究会) 
  • シンガポールの「経済構造改革株式」についてのモ 2005-03-05  (初出『人間の経済』79号 ゲゼル研究会)  

「指数的成長が有限な世界で永久に続きうると信じる者は理性を失った者たちか、さもなければ経済学者たちだ」

(ケネスEボールディング)









ヴェルグル労働証明書(1930年代の減価する補完通貨)裏面

諸君、ため込まれて循環しない貨幣は、世界を危機に、そして人類を貧困に陥れた。労働すれば、それに見合う価値が与えられなければならない。お金を一部の者の独占物にしてはならない。この目的のために ヴェルグル労働証明書は作られた。貧困を防ぎ仕事とパンを与えよ

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